伊勢神宮の禰宜・吉川竜実さんに学ぶ「神道」シリーズ。
今回は、「日本のお正月」について教えていただきました!
吉川さん:お正月といえば、1月1日に神社やお寺に初詣に行くことが現代では定着しましたね。伊勢の地元でも、元旦はもちろんのこと毎月1日に伊勢神宮にお参りする「一日参り」という風習もあります。元旦に参るのは、年末31日に一つの年が終わって心新たに次の一年の初々しいエネルギーを神さまから頂戴するという思いが込められているのでしょう。
しかし、もともと江戸時代までは秋の豊作が終わった農閑期の始めに、「今年も無事に自分たちの暮らしを支える収穫物が神々のおかげで、またご先祖さまのおかげもあいまってもたらされ、幸せな1年が約束されました」という感謝のお参りをしたことから始まっています。
では、なぜ現在のように、年の始めにお参りするスタイルが根付いたのでしょうか。山口 誓子(京都の俳人)は次のような句を詠じています。
日本が ここに集まる 初詣
日本全国から伊勢の初詣に人々が押し寄せ、ここを起点として心新たな初々しい歳がはじまる、という気持ちをよく表しているのではないでしょうか。
近代に入ってからお正月に著名な遠隔にある神社や仏閣へ参詣する人々が増えた理由のひとつには身近な交通手段である鉄道の発達があります。加えて、太陽暦の採用によって去年・今年という区別がより鮮明になったことなどもあげられるでしょう。
ところで、新年には「歳神さまがこられて幸せをもたらしてくれる」とよくいわれますね。この歳神さまは、おそらく本来はご先祖さまを指していたのではないかと思われます。
柳田国男氏の著書『先祖の話』によると、歳徳神※(歳神様)は例えば商家では福の神、農家では御田の神だと思っている人が多かったり、はたまたその御姿は美しい弁財天女で描かれることもあれば、仙人のようなお爺さんの姿をしているとも伝えられていたりと、地域によって様々な御姿で人々に認識されているといいます。
※歳徳神・・・陰陽道で、その年の福徳を司る神である。年徳、歳神、正月さまなどとも言う。
そして「この神をねんごろに祀れば、家が安泰に富み栄え、ことに家督の田や畠が十分にその生産力を発揮するもの信じられ、かつその感応を各家が実験していたらしいことで、これほど数多くまた利害の必ずしも一致しない家々のために、一つ一つの庇護支援を与え得る神といえば、先祖の霊をほかにしては、そう沢山はあり得なかったろうと思う。(二二:歳徳神の御姿)」と指摘しています。
このように、元来のお正月の意味とは、農閑期に氏神さまにお参りし、稲作の神さまである(柳田氏はご先祖さまであっただろうと指摘)ご先祖さまを家々にお迎えして祭るのが初詣であったようです。
ご先祖さまが戻ってきやすいようにその目印や標章として、各家が各々にしめ縄をかけたり門松を飾ったりしたのでしょう。ちなみに、伊勢では自分たちの住まいのある所は神都(=神々の都)であるという意識のもと、三が日だけでなく年中を通してしめ縄をかけるといった特有の風習もありますね。
吉川 竜実さんプロフィール
伊勢神宮禰宜・神宮徴古館・農業館館長、式年遷宮記念せんぐう館館長、教学課主任研究員。2016年G7伊勢サミットにおいて各国首相の伊勢神宮内宮の御垣内特別参拝を誘導。通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。
知っているようで知らないことが多い「神道」。『神道ことはじめ』は、そのイロハを、吉川竜実さんが、気さくで楽しく慈しみ深いお人柄そのままに、わかりやすく教えてくれます。読むだけで天とつながる軸が通るような、地に足をつけて生きる力と指針を与えてくれる慈愛に満ちた一冊。あらためて、神道が日本人の日常を形作っていることを実感させてくれるでしょう。
下記ページからメールアドレスをご登録いただくと、『神道ことはじめ』を第2章まで無料でお試し読みいただけます。また、吉川竜実さんや神道に関する様々な情報をお届けいたします。ぜひお気軽にご登録くださいませ♪
