歴代の天皇陛下に代わって天照大御神に仕えるために選ばれた斎王。前号に引き続き今号では、伊勢の神宮で最も由緒深い「三節祭」に神宮に赴き、神々を祀られた斎王にまつわるお話をご紹介いたします。
和銅五年(712)壬午夏四月、
長田王を伊勢斎宮に遣しし時、
山辺の御井にて作れる歌
山辺の御井を見がてり神風の
伊勢處女ども相見つるかも
(『万葉集』巻一より)
吉川さん:斎王の伊勢神宮における祭典奉仕は、三節祭と呼ばれる6月と12月の月次祭と9月の神嘗祭の各奉幣に限られ、外宮には各月の16日、内宮には17日にご参向されました。
三節祭の祭祀の大要は両宮ほぼ同じで、1日目には由貴大御饌という大御神にお食事を供する儀式が行われ、2日目にはいよいよ斎王が奉仕される奉幣という天皇陛下よりの絹や麻等の布帛(織物)類を大御神へ奉献する儀式が斎行されたのです。
この時の斎王の奉仕次第については、『皇太神宮儀式帳』や『大神宮式』に詳しく記述されています。
すなわち、奉幣行事の冒頭にあたり斎王は両正宮中重の斎庭にある斎王候殿に着かれ伺候なされます。
そして大宮司から命婦と呼ばれる女官の手を経て先ず木綿鬘、次に玉串が斎王に献ぜられます。
斎王は額に木綿鬘を付けられ玉串をとられて瑞垣御門前へと進まれ着座なされ、再拝両段という鄭重なる敬礼作法を以て大御神に敬虔なる祈りを捧げられます。
次いで斎王捧持の玉串は命婦の手を経て大物忌という聖なる童女に授けられ瑞垣御門の西の頭に奉られて、やがて斎王候殿へとお戻りになられます
これが斎王の奉仕次第の概要ですが、この玉串奉納の意味するところは大御神のミアレ(ご出現)の象徴といわれています。
従ってこの「玉串」の解釈については、お供えものとしての「手向串」ではなく、「玉」は大御神の神霊と斎王の御霊をあらわす「霊」であり、「串」はそれらを一つにつないで神人合一のご境地に至るための祭具の一つである「串」と捉えられるのではないでしょうか。
伊勢に御座しける時、
女郎花を栽ゑられたりけるに、
京へ帰り上り給ひて、
うゑおきて花の都へ帰りなば
恋しかるべき女郎花かな
粛子内親王
(『新続古今集』より)

頭に木綿髪を付け、手に玉串をとり、祈りを捧げられます。
吉川 竜実さんプロフィール
伊勢神宮禰宜・神宮徴古館・農業館館長、式年遷宮記念せんぐう館館長、教学課主任研究員。2016年G7伊勢サミットにおいて各国首相の伊勢神宮内宮の御垣内特別参拝を誘導。通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。
知っているようで知らないことが多い「神道」。『神道ことはじめ』は、そのイロハを、吉川竜実さんが、気さくで楽しく慈しみ深いお人柄そのままに、わかりやすく教えてくれます。読むだけで天とつながる軸が通るような、地に足をつけて生きる力と指針を与えてくれる慈愛に満ちた一冊。あらためて、神道が日本人の日常を形作っていることを実感させてくれるでしょう。
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