「縄文意識」とは、己が生業に全力で勤しみ、無我や没自然の境地となって真の自己を解き放ち、あるがままの姿で自由に生き切っていく意識のこと。=0意識(私=0=∞)=ゼロ・ポイント・フィールド。
吉川さん:「神奈川沖浪裏」の画面左に描かれている大波と呼応して描かれている右波の形状に注目し、幾何学的な観点から解析を行った。右波の形状は黄金矩形から作る黄金螺旋の近似で表すことができ、この黄金螺旋を正確に割り出された長さだけ下に平行移動させると、下に描かれている船先の形状と一致する。
さらに、この黄金螺旋を左右の方向に移動させると画中に描かれている船先や富士の形状と一致することが分かった。このことは、本研究において得られた黄金矩形が「神奈川沖浪裏」の構図の要になっている事を示唆している。
(加藤千佳・大田昇一「北斎『「神奈川沖浪裏』」の構図についての一考察」)
黄金螺旋とは、オウム貝の殻をはじめヒマワリの種や台風の雲など自然界の造形美である渦巻文のことをいいます。森羅万象(宇宙・天地・自然)を師と仰ぎ、作画を極め続けたという北斎ならではの慧眼によって生み出された奇跡の構図だったのです。
筆者は先に『神道の源流「縄文」からのメッセージ』において、縄文文化を代表する土器である〝火焔型土器〞の特異性が、鶏頭冠突起と口縁部の鋸歯状フリルにあり、これらの部位に北斎の『神奈川沖浪裏』の大小の波浪のイメージとが重なって見えることを指摘しました。
その上に、画中より黄金螺旋と呼ばれる渦巻文様の幾何学的文様が検出できるとなると、まさに同土器の胴体部に施された最大の特徴である隆起線文様の渦巻文と合致することが窺えるのではないでしょうか。
このことは、立体的な火焔型土器の特異性を平面的な浮世絵の世界に見事に採り入れ表現しているのが北斎の『神奈川沖浪裏』であったことを示しています。
もちろん北斎が火焔型土器の存在を知っていたとは到底思われません。しかしながら、芸術的な世界において仮に北斎も火焔型土器を作った縄文の人々が抱いていた意識と同じ領域(=ゼロポイント・フィールド、透明なる混沌)に達していたとするならば、時空間を超えて両者は同じモノヅクリの意
識を共有し発動していたこととなりますが如何でしょうか。
【図1】
黄金矩形と黄金螺旋の
近似形
【図2】
神奈川沖浪裏に隠された
黄金螺旋(右回転)
【図3】
神奈川沖浪裏の大波と
火焔型土器上部の文様
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吉川 竜実さんプロフィール
神宮参事・博士(文学)
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
平成2(1990)年、即位礼および大嘗祭後の天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、平成5(1993)年第61回式年遷宮、平成25(2013)年第62回式年遷宮、平成31(2019)年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、令和元(2019)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。平成11(1999)年第1回・平成28(2016)年第3回神宮大宮司学術奨励賞、平成29(2017)年、神道文化賞受賞。
通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。