伊勢神宮の吉川竜実さんに学ぶ「神道」縄文意識覚醒アート―⑲凱風快晴―(三)

「神道ことはじめ」コラム

「縄文意識」とは、己が生業なりわいに全力で勤しみ、無我や没自然の境地となって真の自己を解き放ち、あるがままの姿で自由に生き切っていく意識のこと。=0意識(私=0=∞)=ゼロ・ポイント・フィールド。

吉川さん:それから小林達雄氏は、縄文文化には既に「二項の対立と合一」の思想が存在することを主張されています。

たとえば表面を朱漆しゅうるしで塗った土器と黒漆で塗った土器とが近接して一対で発見されていることをはじめ、大小二重の円環をなす石列で構成される環状列石や、近接する二つの環状列石の好例などを挙げながら、火焔型土器や王冠型土器についても次のような注目すべき見解を提示されています。

典型的な火焔型土器や王冠型土器は、縄文土器の名の由来である縄目文様を器面にもたない。器面全体に及んで粘度紐を貼り付けたり、竹管を半截した施文具で凹凸を強調したったりした(原文ママ)隆起線文様で構成される。隆起線文様は渦巻やS字状に配され、独特な造形美を生み出す。( 略 )

すなわち、火焔型土器と王冠型土器の二型式は、容器の造形にほとんど違いをみせない。両者を分けるのは、縄文土器の個性たる突起なのである。火焔型土器は水平な口縁に立ち上がる四つの鶏頭冠突起を有する。対して王冠型土器は波状の口縁の波頂が短冊形をなす。

火焔型土器と王冠型土器の二型式は、火炎土器様式の遺跡では必ず併存し、単独行動をとるものではない。火焔型土器と王冠型土器は、ともに縄文土器に特有の突起をもち、大同小異の関係でありながら、あえて部分的に異なる造形を採用することで、対立する二者を生み出している。

つまり、火炎土器様式にあっては、火焔型土器ひとつ、あるいは王冠型土器のみでは事足りず、両者が揃って、はじめてひとつの世界観の完成をみるわけである。

火炎土器様式における縄文人の世界観は、ひとつのカタチのデザイン火焔型土器だけで完結せず、似て非なる対立するカタチのデザイン王冠型土器を生み出すことで、二項対立的な思考を抱えていることを知る。

その一方でどちらか一つでは良しとせず、二つそろってはじめて一つのありようを見せるのである。まさに「二つ一つ」の縄文思想である。
(小林達雄「火焔土器の正体 その2『二つ一つ』の縄文思想」『寶徳』185号)

※火焔土器と火炎土器様式……「火焔(型)土器」は、新潟県長岡市馬高遺跡で掘り出されたものが、燃え盛る炎を連想させるものとして型式認定されたもの。その後の研究で王冠型土器など複数の型式群を総合して「火炎土器様式」としています。

この指摘から、勘の鋭い方々はすでに何をかお察しになられたのではないでしょうか。 さて、小林達雄氏は先にご紹介した同論文において、縄文の火炎土器様式が近世・近代の浮世絵にも影響を与えて今も日本文化に息づいていることを次のように指摘しています。

火炎土器様式の属する縄文文化は、現代日本文化へと続く源流である。そして、岡本太郎の発言にはじまる日本美術の歴史の中に組みこまれた厳然たる存在でもある。その意味で火炎土器様式は、近世近代の浮世絵あるいは歌舞伎とともに、現代日本文化に生きているのだ。 
(小林達雄「「二つ一つ」の縄文思想」)

これらの小林論を尊重重視して、改めて北斎が『凱風快晴』で表現した赤富士の真価を縄文文化的な思考で検討し解釈するならば、先の『神奈川沖浪裏』と火焔型土器とのデザイン上の共通性からしても『凱風快晴』に比肩されるのはやはり王冠型土器の存在ではなかったかと思います。

当該土器最大の特徴は波状口縁の波頂が短冊型突起となっていることで、この突起が四つある形状に以前筆者は山々の姿をイメージしましたが、一つに集約された短冊型突起を霊峰・富士に見立てることはできないでしょうか。(引用文中の波線は編集部による)

浪と山の対立と合一(二つ一つの縄文思想)

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吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール
神宮参事・博士(文学)
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
平成2(1990)年、即位礼および大嘗祭後の天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、平成5(1993)年第61回式年遷宮、平成25(2013)年第62回式年遷宮、平成31(2019)年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、令和元(2019)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。平成11(1999)年第1回・平成28(2016)年第3回神宮大宮司学術奨励賞、平成29(2017)年、神道文化賞受賞。
通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

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