伊勢神宮の吉川竜実さんに学ぶ「神道」縄文意識覚醒アート―㉙『隅田川怒濤図(男浪・女浪)』(三)

「神道ことはじめ」コラム

「縄文意識」とは、己が生業なりわいに全力で勤しみ、無我や没自然の境地となって真の自己を解き放ち、あるがままの姿で自由に生き切っていく意識のこと。=0意識(私=0=∞)=ゼロ・ポイント・フィールド。ただしコトの成就や調和は神や仏、自然や宇宙に任せる。

吉川さん:以前、縄文意識の体現者・岡本太郎が、「芸術は呪術である」と規定したと触れたことがありますが、まさしく北斎最晩年の大板絵製作時代の画業はこれにあたっているのです。

すなわち東町屋台天井絵『龍図』・『鳳凰図』と上町屋台天井絵『隅田川怒濤』「男浪図」・「女浪図」とは、ともに皇大神社(※1)と逢瀬神社(※2)の疫病退散の夏祭り(京都・祇園祭に準拠して斎行)で、町内に繰り出された屋台(山車だし)を奉飾する呪術目的のために描かれたものです。

また『須佐之男命厄神退治すさのおのみことやくしんたいじの図』は牛島神社(主祭神=スサノオノミコト)の縁起に因んだもので、スサノオノミコトが厄神たちを退治・降伏させて起請文きしょうもんを提出させるところが描き出され、そのご神徳発揚の祈りが込められて製作されたものに間違いはありません。

そして『弘法大師修法図』もやはり西新井大師(本尊=弘法大師)の縁起に因むもので、大師が呪術で鬼(=疫病神)を退散させる場面が描写され、当寺院のご利益が宣明にされています。

続いて『八方睨み鳳凰図』についても岩(巌)松院本堂の天井絵とするために製作されたものであり、当寺院自体がそもそも徳川将軍家によって小布施に左遷転封された悲運の戦国武将・福島正則の怨念を鎮魂するために創建されたと伝承されているのです。

つまり正則の御霊を鎮めるのはもちろんのこと、その怨念による厄災や祟りといった強いマイナスのエネルギーを招福や息災といったプラスのエネルギーへと転化させること。
このような小布施地区一体の平安と安泰を祈る呪術が込められているのは、むしろ当然の帰結であったと考えられます

従って北斎の小布施における3つの大きなパプリックアートともいうべき画業の①龍図・鳳凰図(祇園祭東町屋台天井絵)、②隅田川怒濤図(同祭上町屋台天井絵、付木彫の公孫勝像・応龍像)、③八方睨み鳳凰図(岩松院本堂天井絵)には、

「厄病神や祟り神の激しく強い怨念や邪念を祓い清めて浄化して鎮魂を施し、厄災を招福へと変容させて小布施地域の安泰を図る」という、北斎のひたすらな想いと情熱という呪術が込められて製作されたと見て差し支えないでしょう。

※1:皇大神社:主祭神=アマテラスオオミカミ、配祀神=スサノオノミコト等。平安期の長久年間に伊勢神宮の御分霊を勧請したとする由緒がある。境内社に八坂神社・金刀比羅社等も。
※2:逢瀬神社:主祭神=タケミナカタノミコト、配祀神=ヤサカトメノミコト・スサノオノミコト等。貞観年間に信濃国一之宮・諏訪神社の分霊を千曲川の東岸に勧請、後に当地に遷座したとする社伝を有する小布施六町産土神の一つ。

上町屋台付木彫の公孫勝像(左)と応龍像(右)、小布施・北斎館所蔵
葛飾北斎「須佐之男命厄神退治之図」(推定復元図)、すみだ北斎美術館所蔵

(次号に続く)
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吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール
神宮参事・博士(文学)
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
平成2(1990)年、即位礼および大嘗祭後の天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、平成5(1993)年第61回式年遷宮、平成25(2013)年第62回式年遷宮、平成31(2019)年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、令和元(2019)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。平成11(1999)年第1回・平成28(2016)年第3回神宮大宮司学術奨励賞、平成29(2017)年、神道文化賞受賞。
通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

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