伊勢神宮の吉川竜実さんに学ぶ「神道」縄文意識覚醒アート―㉔甲州石班沢―(一)

「神道ことはじめ」コラム

「縄文意識」とは、己が生業なりわいに全力で勤しみ、無我や没自然の境地となって真の自己を解き放ち、あるがままの姿で自由に生き切っていく意識のこと。=0意識(私=0=∞)=ゼロ・ポイント・フィールド。ただしコトの成就や調和は神や仏、自然や宇宙に任せる。

吉川さん:文政年間(1818〜1830)にヨーロッパから安価な化学的合成顔料の「ベロ藍」が輸入されるようになると、それまでの朱色や黄色を主体とした多色摺たしょくずりの浮世絵の世界にも清々しい青藍)色が多用されるようになりました。

このベロ藍の普及を受けて、北斎の弟子で人気浮世絵師の渓斎英泉けいさいえいせんは藍色の濃淡だけで描く「藍摺絵あいずりえ」を始めました。藍摺絵は絵師と版元とが一種の水墨画のつもりで始めたといわれていますが、今でもクールでエレガント、かつクリスタルでモダンな印象を誰もが持つのではないでしょうか。

『富嶽三十六景』の初版が出版されたのは、天保二年(1831)年から同六年(1835)にかけてです。それに先立ち版元の西村永寿堂与八が刊行物の広告欄において「富嶽三十六景 前北斎為一翁画 
藍摺一枚、一枚に一景づつ追々出板、此絵は富士の形のその所によりて異なる事を示す」と出版企画を宣伝していることが見られます。

結果的に『富嶽三十六景』中で藍摺絵として出版されたのは10図ほどに留まりますが、全46図の内の実に36図もの輪郭線が藍色で摺られているのは、その名残であると伝えられています。その後は版を重ねるごとに多色摺となりましたが、数ある藍摺絵の中で最高傑作と評されるのが『甲州石班沢』です。

『甲州石班沢』で描かれた「石班沢(鰍沢)」は山梨県富士川町に位置しており、釡無川と笛吹川とが合流し、やがて日本三大急流の一つ「富士川」となる激流の地に位置しています。

出典:「富嶽三十六景《甲州石班沢》」(メトロポリタン美術館蔵)

古より川と川とがぶつかって合流する地点には、マイナスイオンがたっぷり発生し爽やかな気が充満しているからか、葵祭で有名な京都府・下賀茂神社や大忌祭の奈良県・広瀬神社等数多くの神社が今も鎮座していることが認められます。この絵で描写されている場面もちょうど激流と激流とがぶつかり合って爽快さ漂うイヤシロチ。きっと漁場にも最適なポイントであったに違いないと思われます。

北斎はこの絵にも「平行三ツ割法」を採用しています。

●下段部:急峻な川の流れが岸辺と激しくぶつかり合って水しぶきをあげ、泡ぶく様子を点描で示しています。

●中段部:幾重にも引かれた横線と藍色の濃淡を駆使することで、川の豊かな水量をはじめ、吹き渡る風と一体となった流水の速さを誇示し、清く澄んで冷たい温度感までも強調しています。

●中段中央部:岸辺から異様に突き出た岩場に一人の漁師が黙然と立ち、かじかやアユ・アマゴ等の魚を獲るために川面に投網とあみを打ち入れた緊張の一瞬を表現。その傍らでは魚籠びくを覗いて捕獲された魚を確かめる一人の少年の微笑ましい姿も描き出されています。

●画面上段部:(中・下段部で展開される)下界の様子を静かにただ悠然と見守る静寂感溢れる「裏富士の高嶺」が描写されています。

また幾何学的には既にこれまでも指摘されてきた通り、岩場の左側の傾斜が少年の頭を通過し漁師の背から頭へ、そしてピンと張られた網へと繋がって三角の山形を形成しており、その相似形が遠景の裏富士として描かれていることを確認することができます。
(波線は編集部による)
(次号に続く)

さまざま対比と相似形のマジックが埋め込まれています!
出典:戸田吉彦著『北斎のデザイン』(翔泳社)


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吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール
神宮参事・博士(文学)
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
平成2(1990)年、即位礼および大嘗祭後の天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、平成5(1993)年第61回式年遷宮、平成25(2013)年第62回式年遷宮、平成31(2019)年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、令和元(2019)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。平成11(1999)年第1回・平成28(2016)年第3回神宮大宮司学術奨励賞、平成29(2017)年、神道文化賞受賞。
通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

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