伊勢神宮の吉川竜実さんに学ぶ「神道」縄文意識覚醒アート―㉖甲州石班沢―(三)

「神道ことはじめ」コラム

「縄文意識」とは、己が生業なりわいに全力で勤しみ、無我や没自然の境地となって真の自己を解き放ち、あるがままの姿で自由に生き切っていく意識のこと。=0意識(私=0=∞)=ゼロ・ポイント・フィールド。ただしコトの成就や調和は神や仏、自然や宇宙に任せる。

吉川さん:神道でも、古来より「笑い」に秘められた呪力やパワーをとうとんでいることが見られます。その一例が、日本神話で有名な「天岩戸」神話のクライマックスです。

アメノウズメノミコトが神懸かりの状態となって舞を披露すると、八百万の神々が大いに笑うことによってアマテラスオオミカミが天岩戸から出現されます。この時オオミカミの出現を導く決め手となったのは、やはり「笑い」でした。

②の「呪術性の高いモノクローム」については、本図には「多色摺」のものと「藍摺のみ(単色)」の2種類の存在があることは先に触れました。はたして多色摺と単色、どちらの絵の方が〝縄文意識覚醒アート〞としての真価を発揮するでしょうか?それは単色摺の藍摺絵の方に軍配があがるものと考えられます。

その理由として、縄文意識の体現者・岡本太郎の次の主張をご紹介したいと思います。
極彩色が施されたマンダラ(東寺や高野山所蔵)と、紺地に金泥のみで描かれた(=モノクローム)マンダラ(江戸末期写、京都・高雄山神護寺たかおさんじんごじ所蔵)を見比べているくだりです。モノクロームの方にマンダラとしての正当なあり方を感得し、かつその有効性を強調しているのですが、本図と相通じるものがあると見られるからです。

この紺地に金泥で描かれた、ベタ一面のひろがりを眺めていると、やがて一切が真空状態になり、何も見えなくなってくる。空間が脱落し、時間は霧消してしまうのである。そして、もうもうと、白茶けた、密度の濃い、煙のようなものに全身がまかれる思いだ。私の心は砂を噛んで索漠さくばくとする。

私の直面した実体、いや虚体、つまりこのマンダラは絶対肯定でありながら、絶対否定ではないか。

私は戦慄する。マンダラがこのように空間を否定し、歴史を否定し去るということは正しい。それこそ絶対感である。

現代は空間に依拠し、時間に甘えている。鼻もちならないサイエンスのオプティミズム。そしてまた歴史主義的な価値基準。( 略 )

これが単色の紺地であり、呪文が金泥であるということに、私は強烈な圧迫感を感じとった。ここに実は大きな問題が暗示されている

多くのマンダラは美しい彩色が施されている。東寺の、真言院マンダラとよばれる三副本ふくほんをはじめ、ほとんどそうである。高野山で見たものもそれで、私はタペストリーのような美しさだといった。

しかしこの二つの方法をくらべてみて、私の心像には、この紺地に金だけで描かれた、いわばモノクロームの方が正しい、とうつる。これがマンダラの正当なあり方だととるのである。

色が一色だけの場合、たとえば紺なら紺だけに向きあっていれば、それはもう彩りではなくなってしまう。直視しているうちに、無限の空間に没入して行く。一切空の場所に、あらゆるイメージの可能性がわいて出る。そしてそれは無限に消滅し、瞬間、瞬間に出発し、展開するのである。( 略 )

マンダラのように、全身全霊を絶対と同一化するモメントこそ、感覚的であってはならないのだ。自分と対象が自由自在に交流しうるー己れを客観的に見きわめ、冷静に悟るためには、やはり凝視するものはすでにつくり出されたハーモニーであってはならない。無色のマンダラが正しいのである。
( 略 )

マンダラのモノクロームはニヒリズムではない。秘密への参入。絶対無としての、あくまでもかりそめの手段である。かりそめだからこそ強烈なのである。
岡本太郎「曼荼羅頌」(岡本太郎の宇宙Ⅳ『日本の最深部へ』所収)

(引用文中の波線は編集部による)

出典:「富嶽三十六景《甲州石班沢》」(メトロポリタン美術館蔵)

(次号に続く)
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吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール
神宮参事・博士(文学)
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
平成2(1990)年、即位礼および大嘗祭後の天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、平成5(1993)年第61回式年遷宮、平成25(2013)年第62回式年遷宮、平成31(2019)年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、令和元(2019)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。平成11(1999)年第1回・平成28(2016)年第3回神宮大宮司学術奨励賞、平成29(2017)年、神道文化賞受賞。
通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

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