伊勢神宮の吉川竜実さんに学ぶ「神道」縄文意識覚醒アート―㉘『隅田川怒濤図(男浪・女浪)』(二)

「神道ことはじめ」コラム

「縄文意識」とは、己が生業なりわいに全力で勤しみ、無我や没自然の境地となって真の自己を解き放ち、あるがままの姿で自由に生き切っていく意識のこと。=0意識(私=0=∞)=ゼロ・ポイント・フィールド。ただしコトの成就や調和は神や仏、自然や宇宙に任せる。

吉川さん:同書を参考に各絵画の特長をまとめてみましょう。

東町祭屋台天井絵:製作に約半年、完成後に江戸へ戻る。
天井絵 鳳凰と龍。125センチ四方の桐板に描かれる。
鳳凰  暗い藍色の地色に沈ませて描かれる。画面いっぱいに長大な円形をした2枚の尾羽と翼、孔雀の尾紋のような金の珠が光り輝いている。
    紅色の地色に金箔を多用。縁には図案化された円形の波濤。小布施で描かれた龍図習作の「終極の集成」ともいえる。

上町祭屋台天井絵(怒涛図)と木彫:製作期間はおよそ11ヶ月
天井絵 怒涛図(男浪・女浪)。北斎の代表作「神奈川沖浪裏」の最終進化形。
木彫  屋台内側に、公孫勝と応龍。公孫勝は地元の彫師・亀原和四郎作で、7度目の制作で北斎の了解を得たもの。応龍は江戸の彫師・松五郎作で共に極彩色が施される。

岩松院天井絵:東町と上町の屋台完成直後で、小布施画業の集大成。
天井絵 岩松院の天井(檜板)に描かれた全面極彩色の鳳凰図。金箔や油煙墨を使用。
顔料  中国から長崎経由で輸入した瑪瑙めのう、珊瑚、翡翠、孔雀石、錦臙脂にしきえんじの宝石を、砕いてアラビアゴムで溶いたもの。当時の価格で約6,000万円相当。完成から160年経過も鮮やかさを維持し続ける。

また荒井勉氏は、小布施での業績も含めた北斎最晩年の画業として何よりも注視しなければならないのは、江戸での創作活動も加えた「大板絵おおいたえ」製作であったとして以下のように論述されています。

大板絵の仕事として残っている作品を、次に並べてみる。
①八十五歳完成『龍図』・『鳳凰図』(小布施の東町の屋台)
②八十六歳完成『
須佐之男命厄神退治すさのおのみことやくじんたいじの図』(東京牛島神社・焼失)
③八十七歳完成『男浪図』・『女浪図』(小布施の上町の屋台)
④八十八歳下絵『
弘法大師修法図こうぼうだいししゅうぼうず』(東京西新井大師所蔵)
⑤八十九歳完成『巌松院・鳳凰図』(小布施の巌松院天井

①の東町の屋台絵は、高井鴻山の希望する絵であったことを、私はすでに示している。したがって、葛飾北斎の「見立て絵」の構想の中には入っていなかった絵といえる。

⑤の『巌松院・鳳凰図』は、福島正則のために描いたもの。つまり、福島正則の家紋である桐に鳳凰が棲んでいる、という背景で描かれたもので、「見立て絵」としては、それ以上の複雑さはないと思われる。

「見立て絵」として描かれていると私が思うのは、②、③、④の作品である。しかもそれらは、開国予想図として、統一したテーマで描かれているとみなされるのである。

最初に、②の『須佐之男命厄神退治の図すさのおのみことやくじんたい』から説明してみよう。葛飾北斎は、高井鴻山の招きもあって八十二歳の時に、小布施にやってきた。屋台絵を描くことを承知している。そして、大板絵に描くための準備をしている時に思った。大板絵という新しい分野を、晩年の仕事のテーマとしてみよう。

親友であった柳亭種彦を死に追いやったのは、徳川幕府。この幕府に一矢むくいたい気持が、葛飾北斎にはあった。そんな時、西洋人が上陸してくるのを、日本で最初に予言した人物がいるのを、高井鴻山から聞かされた。

その人物とは、小布施と接する松代藩の佐久間象山である。高井鴻山の段どりで、佐久間象山に会った。八十四歳の五月のことであろう。この時に葛飾北斎は、心の中に次のような決意をしたと思う。

「開国予測図を見立て絵として描く」
(荒井勉著『北斎の隠し絵』「第十章『開国予測図』としての三点」より)

荒井氏は北斎の「大板絵」全5点から3点を抽出されて、その後各々に対して詳細な分析と検討を行われた結果、これらの作品が北斎にとって初めての師匠であった勝川春章かつかわしゅんそう譲りの「見立て絵」として近未来を見越した『開国予測図』に相当するであろうという大胆な仮説を展開されました。

筆者も大いに賛同の意を表すものですが、この荒井氏の『開国予測図』相当説の真偽はともかく、むしろ筆者が重視したいのは全五点の「大板絵」がすべて「呪術的色彩を帯びている」ということです。

出典:『隅田川怒濤図(男浪・女浪)』(北斎館所蔵)


バックナンバーはこちら▼

吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール
神宮参事・博士(文学)
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
平成2(1990)年、即位礼および大嘗祭後の天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、平成5(1993)年第61回式年遷宮、平成25(2013)年第62回式年遷宮、平成31(2019)年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、令和元(2019)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。平成11(1999)年第1回・平成28(2016)年第3回神宮大宮司学術奨励賞、平成29(2017)年、神道文化賞受賞。
通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

★吉川竜実さん著書『神道ことはじめ』の無料お試し読みプレゼント★

知っているようで知らないことが多い「神道」。『神道ことはじめ』は、そのイロハを、吉川竜実さんが、気さくで楽しく慈しみ深いお人柄そのままに、わかりやすく教えてくれます。読むだけで天とつながる軸が通るような、地に足をつけて生きる力と指針を与えてくれる慈愛に満ちた一冊。あらためて、神道が日本人の日常を形作っていることを実感させてくれるでしょう。

下記ページからメールアドレスをご登録いただくと、『神道ことはじめ』を第2章まで無料でお試し読みいただけます。また、吉川竜実さんや神道に関する様々な情報をお届けいたします。ぜひお気軽にご登録くださいませ♪

タイトルとURLをコピーしました