「縄文意識」とは、己が生業に全力で勤しみ、無我や没自然の境地となって真の自己を解き放ち、あるがままの姿で自由に生き切っていく意識のこと。=0意識(私=0=∞)=ゼロ・ポイント・フィールド。ただしコトの成就や調和は神や仏、自然や宇宙に任せる。

吉川さん:信濃国(現長野県)高井郡小布施の曹洞宗梅洞山・岩(巌とも)松院には嘉永元年(1848)に北斎(88〜89歳)が描いたとされる肉筆画の最高傑作『八方睨み鳳凰図』があります(実際に完成させたのは描画を補佐した娘の葛飾応為(「お栄」とも称す)と高井鴻山の両者であったとも推測されています)。
当絵は鴻山の菩提寺でもあった岩松院本堂大間の天井絵一面(凡そ間口6.3メートル、奥行き5.5メートル、21畳分)として描画されたもので、桧板の上に白土の下地を施したのち、
油煙墨(黒色)や瑪瑙(朱色)や珊瑚(黄色がかった赤色)〈辰砂(朱色)や鉛丹(黄色がかった赤色)とも〉をはじめ海外から輸入された孔雀石(緑色)や鶏冠石(黄色)・花紺青(紫色がかった青色)・ベロ藍(藍色)等の高価で大量の顔料を油質(=アラビアゴム)や水膠で溶かした「岩絵具」を以て極彩色の聖獣「大鳳凰」が描き出されています。
その周囲には胡粉や金箔を粉にした「金砂子」が蒔かれて仕上げられているのです。実に原材料費だけで金150両・金箔4400枚が消費されたといいますから、出資者の鴻山が現存最大にして絢爛豪華な北斎畢生の肉筆画にかけた並々ならぬ想いには驚愕せざるを得ないのではないでしょうか。
また岩松院は、日没を拝んで観想するという「日想観」に基づいて、西向きに築寺されています。そのため釈迦の生誕日の法要である「降誕会」(旧暦4月8日)前後の夕刻には本堂に夕陽が差し込んで天井絵の『八方睨み鳳凰図』が反射体へと変貌し、各種宝石を粉砕して作られた岩絵具をはじめ油煙墨や金砂子の効果によって金や銀に光り輝くといいますから、この演出力にも驚きを隠しきれない思いがします。
普通一般的には寺院の天井絵といいますと、京都・妙心寺法堂の『雲龍図』(狩野探幽画)をはじめ天竜寺法堂の『雲龍図』(加山又造画)や建仁寺本堂の『双龍図』(小泉淳画)等のように聖獣では「龍」が画題として選ばれる場合が圧倒的に多いように思われます。しかしなぜ岩松院では「鳳凰」をわざわざ選んだのでしょうか。
鴻山が常々抱いていた仏教思想における「無常」観を北斎が敢えて相克するために、「永遠」性を象徴するために最もふさわしい聖獣であった「鳳凰」が選ばれたとする仮説(現岩松院住職・渡辺正巳氏提唱〈九州国立博物館編著『北斎日新除魔図の世界』「北斎を訪ねて」参照〉)もありますが、この説よりもむしろ鳳凰選定の理由を荒井勉氏が次のように「北斎が福島正則の霊に同化することができた」ことに求めた見解の方が正しいように思われます。
「葛飾北斎が鳳凰にこだわったのは、福島正則の霊に同化できたからだ。巌松院にとっての聖獣は、鳳凰が最もふさわしかったのだ」
福島正則の遺した品には、桐の家紋が示されている。そして正則の霊廟の上にも桐の紋があり、巌松院の本堂の屋根の中央にも、桐の紋が置かれている。
葛飾北斎は、五十歳代の時に『北斎漫画』のシリーズを企画した。一種の百科事典である。『北斎漫画』の背景をさぐっている時、参考にしたと思われる書物をみつけた。『和漢三才図会』という本である。
この『和漢三才図会』の「鳳凰」の部分に、次のような説明文が書かれていた。「鳳凰は、梧桐でなければ住まず」桐のある場所にしか、鳳凰は棲んでいない、ということ。つまり、桐の紋で満ちている巌松院には鳳凰の絵がふさわしかったのである。
巌松院は、小布施一帯では最も大きな寺で、高井家ともゆかりのある寺である。しかし、それだけの理由で葛飾北斎は大作を描いたのではない。福島正則の怨みの気持ちを、200余年も伝えてきた寺院だからこそ、葛飾北斎は、大作を残したものと思う。
(『北斎の隠し絵』「第八章 巌松院に宿る二つの歴史」より)
(下線は編集部による)
(次号に続く)
バックナンバーはこちら▼
吉川 竜実さんプロフィール
神宮禰宜・博士(文学)
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。平成2(1990)年、即位礼および大嘗祭後の天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、平成5(1993)年第61回式年遷宮、平成25(2013)年第622回式年遷宮、平成31(2019)年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、令和元(2019)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。平成11(1999)年第1回・平成28(2016)年第3回神宮大宮司学術奨励賞、平成29(2017)年、神道文化賞受賞。
通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。
知っているようで知らないことが多い「神道」。『神道ことはじめ』は、そのイロハを、吉川竜実さんが、気さくで楽しく慈しみ深いお人柄そのままに、わかりやすく教えてくれます。読むだけで天とつながる軸が通るような、地に足をつけて生きる力と指針を与えてくれる慈愛に満ちた一冊。あらためて、神道が日本人の日常を形作っていることを実感させてくれるでしょう。
下記ページからメールアドレスをご登録いただくと、『神道ことはじめ』を第2章まで無料でお試し読みいただけます。また、吉川竜実さんや神道に関する様々な情報をお届けいたします。ぜひお気軽にご登録くださいませ♪






