伊勢神宮の吉川竜実さんに学ぶ「神道」縄文意識覚醒アート㊳『八方睨み鳳凰図』『富士越龍』(三)

「神道ことはじめ」コラム

「縄文意識」とは、己が生業なりわいに全力で勤しみ、無我や没自然の境地となって真の自己を解き放ち、あるがままの姿で自由に生き切っていく意識のこと。=0意識(私=0=∞)=ゼロ・ポイント・フィールド。ただしコトの成就や調和は神や仏、自然や宇宙に任せる。

「八方睨み鳳凰図(右)」は岩松院所蔵の模写図。「富士越龍(左)」は北斎館所蔵。

吉川さん:“北斎”に準えた「龍」と、高井鴻山に準えた「鳳凰」を描くことで、師友関係における強い友情の証しとして東町屋台の天井絵画題に一対の関係で選ばれたとお話しました。

そして「龍」は左回りに、「鳳凰」は右回りに回転する形で描かれており、どちらも『隅田川怒濤図』と同じく渦の力(スピンエネルギー)を発動させています。

この渦の力によって、上町屋台と同じように、祟り神や疫病神の有するマイナスのエネルギーを祓い清めて鎮魂を施し、招福や息災といったプラスのエネルギーへと転化・変容させる働きを持つと考えられます。

つまり北斎が、小布施地域に平安と幸福とをもたらすための祈りと呪術を込めて両作品を製作したと考えられることは以前にも触れたところです。

但し、この私見と異なる意見としては神山典士氏が東町屋台天井絵に『龍図』・『鳳凰図』が選定された背景に元小布施町公民館職員・飯沼正浩氏主張の「陰陽五行説」があったとする次のような見解も挙げられています。

一方東町の祭屋台の天井画は、躍動する龍と静かに弧を描いて舞う鳳凰を極彩色に描いている。氏は、「龍鳳の組み合わせについては中国では、『龍鳳呈祥』、つまりこの世の最高の吉祥と平穏をもたらす象徴」と書く。

陰陽五行の対立原理で考えると、中国の皇帝は自らを龍と称して超越的な力を持って森羅万象に君臨する天帝であり天子であった。北京の紫禁城には至る所に龍の巣窟を思わせる彫刻がある。

一方皇妃は華麗に飛翔する鳳凰だった。鳳凰は飛龍から生れたといわれ、天翔る鳥類の王者であり五色に輝き五声で啼くと言われる。

「この陰と陽の力の結び合い、天と地、火と水が互いに対立し、拮抗が果てし無く続くことによって、地上に豊穣と多産がもたらされ、吉祥と平穏が永遠に約束されると信じられてきたのである。」
(「陰陽五行説」『知られざる北斎』より)

こちらの『雲龍図』は、「試筆八十二翁卍」の落款が入った天保十二年(1841)に描かれたと推定される。江戸の十八屋が所有したものとは別の作品ではありますが『雲龍図』のご参考まで。出典:永田コレクション(島根県立美術館)

上記のような神山氏の陰陽五行説による理解は優れたものとはいえますが、それだけで「龍」と「鳳凰」とが選定された理由や意義を見出すにはやはり無理があるように思われてなりません。

荒井勉氏は、①鴻山との親交を結ぶ仲立ちをしたのは、北斎の江戸における有力なパトロンの一人でおそらく鴻山と同じ小布施出身の十八屋文右衛門じゅうはちやぶんうえもんと推定されること、②彼の所有する『雲龍図』と東町屋台天井絵の『龍図』とは親子関係にあたると考えられることから、次のように主張されています。

十八屋と葛飾北斎との関係は、いつ頃からのことになるのか。十八屋が所有していた絵に、『雲龍図』というのがある。この絵には、「齢七十八歳」の落款らっかんが入っている。葛飾北斎が小布施にやって来る年よりも、六年前に描かれた作品である。

高井鴻山は、江戸の十八屋に寄った時に、葛飾北斎の『雲龍図』を見て、それが気に入ったようである。小布施の東町の屋台には『龍図』が描かれている。この『龍図』を、十八屋所有の『雲龍図』と比べてみると、そっくりな描き方であるのがわかる。

『雲龍図』は、長方形の紙に描かれているが、屋台の天井絵は正方形のため、龍のS字形に収められている。二つの絵が似ているということによって、高井鴻山との出会いは、十八屋を仲介にしたものであったことが推定できる。
(『北斎の隠し絵』「第五章スポンサー・高井鴻山の役割」より)

(次号に続く)
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吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール
神宮禰宜・博士(文学)
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。平成2(1990)年、即位礼および大嘗祭後の天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、平成5(1993)年第61回式年遷宮、平成25(2013)年第622回式年遷宮、平成31(2019)年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、令和元(2019)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。平成11(1999)年第1回・平成28(2016)年第3回神宮大宮司学術奨励賞、平成29(2017)年、神道文化賞受賞。
通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

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